アメリカのお金の教育(マネー教育/金融教育)は日本とどう違うのか?【わかりやすく解説します】
日本ではお金の教育が海外より遅れており金融リテラシーが低いと言われています。それは本当でしょうか?
この記事ではアメリカの金融教育について詳しく解説していますので、日本との金融教育(マネー教育)の違いを理解できるようになります。
- アメリカの金融教育の歴史
- アメリカの金融教育の組織・仕組み
- アメリカの金融教育は実践的
- アメリカの金融教育の達成基準
- ジャンプスタートというNPO法人とは
- アメリカの金融教育が進んだ背景・理由
- アメリカの金融教育の問題点
- アメリカと日本の金融教育の違いのまとめ
目次
アメリカの金融教育の歴史
アメリカの金融教育の歴史はかなり昔まで遡ります。以下に簡単な年表を作成しました。
従業員への年金の説明義務から、社会的な問題解決のために金融教育の重要性が国を挙げて認識していっている様子が伺えます。
日本よりも、正式に国の戦略になったり、組織が組まれている点が進んでいる理由の一つと思われます。
- 1974年 企業年金の受給者の保護により「エリサ法」が制定され、経営者は従業員に年金のことを教育しなければいけないと定めた。
- 1980年代 金融教育の提供のためNPO法人の設置が推進。預金金利自由化などの金融規制緩和とともに金融教育の積極的な取り組み開始。
- 1994年 教育改革の基本方針の中に金融教育を含む「経済」の項目が挙げられる。
- 2002年 落ちこぼれゼロ2001法の中で金融経済教育に取り組む民間団体に資金援助開始。
- 2008年 サブプライム問題が転機となり、金融リテラシーの不足が指摘される。「金融リテラシーに関する大統領諮問委員会」という金融教育に注目した組織が策定。
- 2011年 「金融リテラシーに関する国家戦略2011」にて海外の金融教育戦略の策定。
アメリカの金融教育の組織・仕組み
アメリカと日本の金融教育の促進する組織の大きな違いは以下です。
日本は国レベルで教育内容を決めるが、アメリカは各州に権限がある
日本では、憲法や教育基本法、学校教育法が関係法令になります。アメリカでは州憲法と教育法が根拠法です。つまり、わかりやすく言うと、日本は一国全体で教育方針を決めますが、アメリカは州独自に義務教育を規定します。アメリカ国内の9割近くの州が金融教育(パーソナルファイナンス)の内容を組み込んでいることから金融教育が普及していることがわかります。逆に1割は金融教育としては組み込んでいないということもわかります。
アメリカの学校教育の基本事項の決定は州等の地方行政府の権限のため、各州には特定目的自治体として学校区(school districts)が設置され、公教育の具体的なカリキュラムが決定されています。したがって、連邦政府は直接的にこれらの地方行政府の教育方針に介入することはできません。要するに、国には権限がないということです。
連邦政府(国)は教育方針を示してその採用を呼びかけるにとどまるため、日本の文部科学省が作成している学習指導要領のような全米で統一された学習基準はなく、各州で異なっています。
実際に金融教育を推進しているのはジャンプスタートと呼ばれるようなNPO法人(非営利団体)等になり、金融教育に関する学習基準モデルを作成したりしています。
多くの州ではその内容を取り入れたり、または直接団体と連携して学習基準を定めています。政府等の公的機関と非営利団体を中心として多様な民間団体の連携により進められているのがアメリカの特徴です。
団体の活動目的に賛同する企業や個人は、寄付金の税制上の優遇措置にも支えられ、活発な支援が行われており、企業による資金支援は団体自体の寄付の他、団体の行なっている個人事業に対するスポンサーとして支援を行なっているケースも見られる。政府の支援もあり例えば、連邦政府は金融教育を推進する非営利団体に、年間150万ドルの補助金を行う「経済教育の優越法」を2004年に施行している。国が税制上の優遇を与えたりすることも金融教育の推進に役立っていると思います。
アメリカの金融教育は実践的
アメリカの金融教育の内容は実践的な内容が多いです。つまり、日常生活に関して直面する問題を解決する能力を養うことを重視しているということです。投資や資産運用についてよりも、クレジットカードやローン、または保険などの内容が多く含まれています。
つまり、生活におけるお金の問題を解決するための教育となっています。
下記がアメリカの金融の授業内容の例です。
- 高校生に対してクレジットカードの注意点や信用情報の重要性を教える授業
- 大学進学の奨学金の活用や学費への備えを学ぶ授業
- 自動車保険の保険料を提言するための要素を学ぶ授業
また、指導の仕方も実践的です。模擬体験、演習やロールプレイ方式の学習プログラムが行われたり、学習教材の提供や教師への指導方法のトレーニングプログラムも存在します。さらに、効果的な取り組み事例の情報共有など、実践を重視した方法で行われています。
アメリカの金融教育の達成基準
アメリカでは、お金の道しるべということでお金の知識に関する達成基準が作られています。
みなさんのお子様には年齢にあった教育はされているでしょうか。このような内容を理解することが必要になると考えています。
以下が、PACFC が作成している「お金の道しるべ(Money Milestone)」 になります。子供が金融に関して賢く生きるため知っておくべき 20 の事柄として定義されています。
- 物を買うにはお金が必要です。
- お金は仕事をすることで得ます。
- 物を買うときは待たなければなりません。
- ほしいものと必要なものは違います。
3 歳 ~ 5 歳
- お金を使うときは選択を行わなくてはなりません。
- 物を買うときは、お店を見比べ値段を比較しましょう。
- オンライン上で情報を共有するのは危険であり、犠牲を伴うことがあります。
- お金を口座に預けることは、お金を守ることになり利息もつきます。
6 歳 ~ 10 歳
- 1 ドル手に入れたら少なくとも 10 セントは貯金しましょう。
- 銀行の口座番号やクレジットカード゙の番号をオンラインで入力することは危険で す。誰かに盗まれる危険があります。
- 貯金は早く始めるほど、複利の利息によって早く増えます。
- クレジットカードを使うことはローンでの借入れと同じです。分割払いには利息が つき、買った値段よりも多くの支払が必要です。
11 歳 ~ 13 歳
- 大学を比較するときは、どれだけの支払が必要かを必ず検討しましょう。
- 現金で買えないものにはクレジットカードを使うべきではありません。
- あなたの初めての給与は期待したよりも少ないでしょう。それは税金が控除されて いるからです。
- ロス個人退職金勘定(Roth IRA (Individual Retirement Arrangement))(注)はすば らしい貯蓄と投資先です。
14 歳 ~ 18 歳
- クレジットカードは毎月、借入れた全額の支払ができるときだけ使用しましょう。
- あなたには医療保険が必要です。
- 緊急用の資金として 3 カ月分の生活費を貯蓄しておくことが重要です。
- 投資するときは、リスクと年間手数料を考慮しましょう。
18 歳 以上
(注)個人が金融機関に開設した積立勘定に税引後の所得を拠出する個人年金制度であり、一定の要件を 満たすことで運用収益が非課税となる税制上の優遇措置を受けることができる。 (出典:“Money As You Grow 20 Things kids need to know financially smart lives”をもとに作成)
参考までに、日本では金融リテラシーマップというものが2015年に作成されています。
ジャンプスタートというNPO法人とは
アメリカでは金融教育はNPO法人と州などが協力して行う場合が多く、ジャンプスタートという組織が金融教育活動を進めていることで有名です。
ジャンプスタート個人金融連盟(Jump$tart Coalition for Persona Finance.)とは幼稚園から高校卒業までを対象とした金融教育活動を進めている代表的な非営利団体です。
連盟は 49 の州付属組織の他、政府機関、学校、非営利団体、民間企業等、150 以上の団体と連携しています。1995 年か ら活動を開始し、本部はワシントン DC にあります。
ジャンプスタート連盟は、学校の金融教育に関する学習基準モデルの作成、金融教育に関する調査等を行っている他、連携団体等が提供している有償・無償の各種教材等をウェブサイト上の情報交換のペー ジ(Clearinghouse)に集約して紹介しており、その数は約 900 件にものぼります。
ジャンプスタートの取り組みとして、以下が主な3つです。
- 教員志望者に対してパーソナルファイナンスの教授法を教える – Jump$tart teacher Training Alliance.
- 金融教育コミュニティの形成を目的とする活動 – Financial Literacy Dan on Capitol Hill, Financial Literacy Month.
- 金融教育のリーダーシップや顕著な業績を表彰する – Jump $tart Award
ジャンプスタートという組織自体が金融教育を行うわけではなく、金融教育を行う教員のトレーニングに力を注いでいます。その方が効率的で効果的だからという理由です。
各州レベルで金融教育の権限がありますので、金融教育導入の動きを後押しするためにはこの方法が良いのだと思います。
各州では金融教育を行う教員養成のための財政的な手当て(予算)が問題になることがあり、この財政的不安を減らすのがジャンプスタートの重要な役割にもなっています。
ここから学べる点は、金融教育を進める上で大切なのは金融教育の担い手である教員の養成および支援である、という点です。
いくら学習指導要領に金融教育を盛り込んでも、担当教員の熱心さや金融リテラシーが不足していたら効果は見込めないという考えです。
逆に、学習指導要領に十分に含まれていなくても、自ら金融リテラシーを向上させようとする熱心な教員を養成・支援できれば少なくとも局所的には教育効果が見込めるでしょう。
日本でもこのような組織が存在できれば、金融教育はもう少し後押しされると思います。
アメリカの金融教育が進んだ背景・理由
ではアメリカが日本よりも金融教育が進んでいるのはなぜなのでしょうか?
理由を挙げていきます。
サブプライム問題
2008年のサブプライムローンでは多くのローン焦げ付きなどが社会全体に広がっていきました。この原因として金融リテラシーの低さが指摘されています。つまり、金融知識がもっとあればもう少し被害を抑えられたという考え方です。このような社会的な問題があったことで金融教育の必要性が高まっていったということです。
クレジットカードの破綻が社会的問題
アメリカは日本よりもクレジットカードが普及しており、なんでもクレジットカードを使います。現金はあまり使わないので、どんどんお金がある気がしてしまって過剰な負債を抱えているアメリカ人が破産する例が多くあります。この社会的問題を解決することが必要なため、金融教育が必要なのです。
銀行に口座を作れない貧困層
アメリカは日本では想像できないくらい二極化が進んでおり、貧困層は金融知識もなく銀行の口座もひらけない人たちもいます。そのような人が法外なお金を取られたりする問題が社会問題化しています。お金の知識をつけることで被害を減らす必要があります。
大学進学の民間の学生ローンの焦げ付きの増加
アメリカの大学に必要な金額は高いので多くの学生がローンを利用するのが現状です。その金額も相当に大きく、奨学金を使わないで民間のローンを使っている人も多いことが問題です。ローンについても知識をつければ、より多くの学生が大学に必要なお金で困ることを少なくすることができます。
自動車社会で自動車保険の知識が必須
アメリカは自動車社会です。車がないと移動ができませんし、一人一台必要なくらいです。そのため、成人になったら車の免許を取ります。同時に保険も入るため非常に身近な知識です。保険についても正しい知識を持つ必要があるので、保険はアメリカの金融教育の中でも重要な内容に指定されています。
アメリカでは経済の危機的な問題を解決するために、お金の教育の必要性が強制的に高まったということですね。
アメリカの金融教育の問題点
日本より進んでいると言われているアメリカの金融教育ですが、問題もあります。
日本にも共通する問題もあるので参考になります。
課題1 金融情報の重要性に関する認識が乏しい
金融教育が日本より浸透しているとは言え、金融教育に興味がない人というのは存在します。その人にどう重要性を理解してもらうかは課題です。
特にアメリカでは貧困層への金融知識の重要性を伝えることが重要な課題となっています。
課題2 必要な情報を消費者にどうやって確実かつ効率的に届けるか
金融教育が重要と理解していても、どこに情報があるかを周知していないと必要な情報を届けることができません。ただ、ウェブサイトに公開しているたけでは見にきてくれる一部の人にしか届けられません。日本でも同じですが、年齢や属性に合わせた方法にて情報を届ける必要があります。例えば若者に届けるにはSNSを有効活用が必須ですし、高齢の方に対してはコミュニティを通して情報提供するなど、考えて情報を届ける必要があります。
課題3 政府機関含めて、金融教育関連団体の連携強化の必要性
アメリカにおいて、政府と州、金融教育関連団体など、様々な組織が関わっています。多くの組織があるので連携を取るのが難しくなります。
同じ目標に向かって無駄のないように足並みを揃えることは大切な課題となっています。
課題4 金融教育プログラムの客観的な効果測定方法の開発
アメリカで特に重要な問題と認識されているのが、効果の測定方法です。金融教育を推進するのは良いですが、その効果が出ているかを確認できないと意味があったのかもわかりませんし、改善もしていけません。一部の調査では金融教育の授業を受けた人のグループより、数学を重点的に教えた方が金融教育の効果が出ていたという問題もあり、測定方法の確立には課題があります。
アメリカと日本の金融教育の違いのまとめ
本記事の内容を以下にまとめます。
- アメリカの金融教育は国としての動きが、日本よりも確かに進んでいる。
- アメリカでは日本のような国の組織でなく、州が独自して教育を決めるため州毎で違いはある。
- アメリカではジャンプスタートのようなNPO法人などの企業・組織が金融教育の一部を担っている。
- アメリカで金融教育が進んだ理由は、解決しなければいけない社会的問題が多く、必要に迫られたため。
- アメリカの金融教育は実践的な内容が多く、生活に密着したもの(クレジットカード、ローン、保険)などが重視されている。
- アメリカの金融教育の問題点は国民に重要性を認識させたり金融情報を効率的に届けること。また金融教育の効果測定方法の確立も課題。
具体的なお金の教育方法についてはこちらに解説していますので、参考にどうぞ。
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